VISION OF FASHION

MENU

COLUMN

JAN JAN VAN ESSCHEの21SSの見どころと、彼らが踏み出した「次なる一歩」

V.O.Fにもいよいよ、JAN JAN VAN ESSCHEの21SSコレクションの衣服が入荷し始めました。第一便では春物のアウターや、美しい生地をたっぷり使ったチュニックなどが送られてきました。

第二便の入荷予定はまだ未定ですが、2月中旬までには今季の全てのアイテムが揃う見通し。ワクワク、ソワソワしている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、バイイングを担当した京都乙景・中村憲一に、21SSのJAN JAN VAN ESSCHEの見どころや、デザイナーのヤンヤン、パートナーのピエトロを含むJAN JAN VAN ESSCHE(以下JJVE)が踏み出した「次なる一歩」について話してもらいました。

21SSのJAN JAN VAN ESSCHEの見どころは「色」と「生地」

__中村さんから見た、今季のJJVEの見どころはどこにありますか?

色と生地だと思います。色に関して言えば、白とアースカラーといった自然により近い色合いを積極的に打ち出していました。

__生地に関してはどうでしょう?

これもやはり、自然な風合いのものを多く採用しているなと思いました。例えばTUNIC#28SCARF#22などで使われている「BOLD STRIPED CLOTH」という生地は、一見して織目がはっきりと見えます。良い意味で素朴な、まるで工芸品のような雰囲気を持っていますよね。

__JJVEは世界の民族衣装への尊敬が感じられるものづくりが特徴ですが、この生地にも同じ文脈を感じます。

そうですね。しかしコレクション全体にこうした生地を使うのではなく、彼らが作る現代的な衣服と組み合わせているのが、彼ららしいクリエイションです。

両者をモノの中で融合するのではなく、スタイリングで融合させている。ピエトロ(ヤンヤンのビジネスパートナー)のスタイリングが光っていますね。

21SSのテーマは「GRACE(気品)」ですが、彼らの持ち味である「土の香りのする気品」は新しい価値観として確立されていくのではないでしょうか。

__今季、中村さんが特に惹かれたものはありますか?

麦わら帽子とヘンプの糸で編まれたKNIT#51、ワイドパンツの生成色のスタイリングが良かったです。裂織のベストも目を惹きました。

特にニットは素晴らしいですね。網目がしなやかに動き体に沿って光と影の動きが変化するんです。彼らの哲学、「有機的組織」ともいうべきか、それが具現化されているのではないでしょうか。

__僕もJJVEのニットを1着もっているんですが、体にそっと寄り添って、優しく包み込むような着心地で、つい手が伸びてしまいます。手編みなのでメンテナンスには気を遣うのですが、大切に着ていきたい服ですね。正直、今季のKNIT#51もかなり気になっています(笑)。

ぜひご検討ください(笑)。

JAN JAN VAN ESSCHEが受け継ぐ「モードの系譜」

__黒よりもアースカラーを積極的に打ち出しているように見えるのは、JJVEが黒から脱却しようとしていることの現れなんでしょうか?

いいえ、JAN JAN VAN ESSCHEが受け継いでいるモードの系譜から考えても、黒は今後も彼らの基本になり続けると思います。

__彼らが受け継ぐモードの系譜とはどういうものでしょうか?

先ほど少し触れましたが、ヤンヤンはアントワープ王立芸術アカデミーのファッション科の出身です(主席卒)。この学校は正統なモードを作り出した、いわゆるアントワープ6(※)を輩出している超名門。ゆえにヤンヤンは、彼らの系譜を確実に受け継いでいるはずなんです。

※アン・ドゥムルメステール、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク、ダーク・ヴァン・セーヌ、ダーク・ビッケンバーグ、ドリス・ヴァン・ノッテン、マリナ・イー。マルタン・マルジェラもこの6人と並び称されることが多い。(参考:Wikipedia

__ヤンヤンが作る衣服は東洋の香りがしていたので、正統なモードの系譜を受け継いでいるというのは意外でした。

「東洋の香り」と「正統なモード」も実はつながっているんです。アントワープ6が学校を卒業してプロになっていくのと同時期に、山本耀司(Yohji Yamamoto)や川久保玲(COMME des GARÇONS)が1982年にパリコレデビューを果たしていますから。

日本勢は東京からパリへ、ベルギー勢はアントワープからロンドンへ殴り込み、みたいなタイミングだったんです。

__ファッションの本場であるパリやロンドンに、日本やベルギーのデザイナーが名乗りを上げる時代だったんですね。

世の中全体に、既成の価値観を破壊しようという空気が生まれつつある時代でした。音楽ではYMOが結成されてテクノの新時代が幕を開け、バンドの主役がギターからシンセサイザーに代わりました。お菓子なんかも、斬新なものが出てきた頃かと思います。

口の中でパチパチ弾けるするキャンディとか、舌が真っ黒になるアイスとかが出始めたのも、その頃かもしれません。うーん、懐かしい(笑)。

__そういう時系列で考えれば、「正統なモード」であるところのアントワープ6が、山本耀司や川久保玲という「東洋の香り」から影響を受けていてもおかしくないですね。

70年代、パリで日本人デザイナーが活躍する基礎を作った故高田賢三(KENZO)や三宅一生(ISSEY MIYAKE)、そして彼らが影響を受けたマドレーヌ・ヴィオネというフランスのデザイナーの存在も忘れてはいけません。

__その女性は何者なんですか?

この女性は1920年代に平面パターンを使ったバイアスカット(※)を発明した人物です。そして、そのアイデアソースになったのが、なんと日本の浮世絵に描かれていた着物だったとされています。

※服の組織を斜めに扱うカット。布地の垂直方向に滑らかなドレープが生じ、体に沿って美しい線を形作ることが出来る。バイアスカットのドレスは1920年代から1930年代に着用され、映画の中でもこの時期の特徴的なものとして頻繁に現れる。(引用:『ファッション辞典』(平凡社) ジョージナ・オハラ[著] 酒井晃子[訳])

__そんなところまで遡れるんですか!?「東洋の香り」と「正統なモード」はぴったりつながっているんですね。

はい。しかし、第二次世界大戦の前に平面パターンを使ったバイアスカットは廃れ、西洋は再び立体パターンの時代に入っていきます。

戦争になると民族団結がゆえに思考が内向きになり、他国の文化は排除されていくもの。敵国・日本の浮世絵から着想したヴィオネの技術が廃れるのは当然です。

だから彼女の技術が再び日の目を見るには、戦後になり、故高田賢三や三宅一生のような日本人デザイナーの活躍を待つ必要があったのです。

__浮世絵、ヴィオネ、日本人デザイナー、アントワープ6、そしてヤンヤン。壮大な物語ですね。

実際、ヤンヤンは影響を受けたデザイナーにヴィオネとアン・ドゥムルメステールの名前を挙げていました。そう考えると、ヤンヤンが正統なモードの系譜にあり、かつ東洋の香りがする理由がはっきりと見えてきますよね。

私は自分を、こうした文脈を持つヤンヤンを通じて、西洋と東洋の橋渡しをするひとりの伝道者だと考えています。

JAN JAN VAN ESSCHEが踏み出した「次なる一歩」とは?

__しかし、今季のJJVEを見ると、明らかにモードファッションの黒からは抜け出そうとしているように見えます。

次なる一歩を踏み出したのだと思います。ヤンヤンはこれまで10年かけてずっと「一枚の布を纏(まと)う」というコンセプトに沿って、シルエットを作るレッスンをしてきた、と私は考えています。

__シルエットを作るレッスン、ですか?

そうです。彼の「一枚の布を纏う」というコンセプトは、人間の体に沿うように生地を切り、縫い合わせる西洋の衣服の作り方への挑戦と言えます。

私たちの体に沿うように作るわけではありませんから、衣服は必然的に着る人の体型や動きに応じて、姿形を変えていきます。いわば衣服と身体の対話が起きるのです。

その中で美しいシルエットを意図的に作り出すのは、簡単なことではありません。

__今季のJJVEはそのレッスンを終え、次のステージに入ったということですか?

はい。彼は10年間、この挑戦的なコンセプトで衣服を作り続け、その結果として、シルエット作りにおける一つの到達点を迎えたのだと思います。

すると次はより細部、深部に向かうわけです。その結果が色選びの変化であり、生地への探究心なのではないか、と考えています。

__JJVEはゆっくり変化するブランドという印象ですが、今回は目に見えて新鮮なコレクションになっていますね。

そうですね。彼らは確固たる哲学に軸足を置きながら、ゆっくりと変化していくブランドです。でも今回は、今までのコレクションの中でも比較的大きな歩幅で変わったなと感じていて。

だから21SSのコレクションは、すでにJJVEの衣服をいくつか持っている人にも新鮮に写るはずです。当社のスタッフも今シーズンはかなり盛り上がっていますね(笑)。東京・contextでは、すでに店頭に並んでいます。ぜひ、実際にご覧いただきたいと思います。

JAN JAN VAN ESSCHEのオンラインストア販売ページはこちら

聞き手/鈴木 直人(ライター)
語り手/中村 憲一(京都・乙景)

<About photo&movie>
Clothing:Jan-Jan Van Essche – @janjanvanessche #janjanvanessche
Film:Ramy Moharam Fouad – @ramymfouad Jordan Van Schel – @jordanvanschel
Music:Willem Ardui – @willem_ardui
Shoes:Petrosolaum – @petrosolaum