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HED MAYNER・ZIIINの“色物”、どう着るべき?日本の伝統色で捉え直す春夏の着こなし

HED MAYNER SS21 - LOOKBOOK
Photo by HED MAYNER

最近は、少し動いただけで汗ばむような陽気になってきたが、某コロナの影響で季節の移ろいを楽しめる状況でもないのがもどかしい。とはいえ、このままシーズンをなんとなく過ごすのも、何か物足りなさを感じる。

このもどかしさを何とかする方法は色々あるだろうが、context tokyoで販売員として働く私こと伊藤香里菜としては、衣服の力を借りたいところだ。

そこで今回は、日本の四季を感じるお手伝いとして、衣服の「色」にまつわる話をしようと思う。話に登場するのは、イスラエル発のブランドHED MAYNERと、V.O.F発のブランドZIIINの2021春夏コレクション。「色」のルーツを辿り、日本の伝統色の面白さを共有できればと思う。

黒一色だった私が、“色物”に抱いていた抵抗感

私の着る服は数年前まで、全身黒一色だった。それはモードファッションの洗礼を受けたからだったが、ずっと黒ばかり着ていた結果、「黒を着ていればまとまって見える」「やっぱり黒が安心するな」と黒に依存するようになっていった。

逆に色物を着ようとすると「色物だと逆に浮いていないか?」「この色物の組み合わせは正解なのか?」と不安を覚えるようになってしまった。色物に対して同じような抵抗感を覚える人は多いのではないだろうか。

他にも色物への抵抗感は違う形をとることもある。例えば「緑色の服」から連想するものといえば、ミリタリーファッションだろう。

引用:Wikipedia


第一次世界大戦中、“あの”緑は兵士たちに強烈な恐怖を与え続け、「戦闘ストレス反応(シェルショック)」という言葉まで生み出した。そうした時代背景やイメージから、オリーブグリーンやカーキグリーンを避ける人もいると聞いた。

しかし最近の私は、気づくと色物に惹かれるようになり、「この色素敵だな。着てみたいな」と思うようになった。なぜそんなに考え方が変わったのかというと、色に対しての捉え方が変わったからだ。

きっかけになったのは、染織史家であり、染色家でもある吉岡幸雄氏が書いた『日本の色辞典』だった。本書は飛鳥・奈良〜江戸時代に実際に使われていた日本の伝統色を、天然の染料・顔料をもとに再現。色の名前にまつわる逸話や歌、物語などにも触れた一冊だ。

たまたま大学の図書館にあったのを手に取って読んだ私は、目が開かれる思いだった。色の名前やそのルーツを知るだけで、色への見方が変わった。

「こんな意味もあるのか」「ルーツを知っていると、なんだか誇らしい気分になるな」と思うようになったのだ。結果、色物を身につけることへの抵抗は薄れ、むしろ積極的に色を取り入れるようになった。

色物を着るのは楽しい。この気持ちを多くの人に知って欲しい。そこで以下では、『日本の色辞典』を参考にしながら、ミリタリーカーキ、エクリュ(オフホワイト)、ピンクパープル、ベビーブルー(サックスブルー)の4色を日本の色彩観に基づいて捉え直してみたい。

ミリタリーカーキは苔の色、自然の美しさを表す色

ミリタリーカーキは苔の色、自然の美しさを表す色
ZIIIN / “MASAMUNE” TAPERED PANTS / MOSS GREEN

ミリタリーカーキ、オリーブドラブ、セージグリーン……“あの”緑は様々な名前で呼ばれるが、日本の伝統色の中では「苔(こけ)色」と呼ばれる。山や川、京都の石庭など、日本のような湿度が高い国では、苔は多くの場所で見られる。

近々入荷予定の新作パンツ“MASAMUNE”をはじめ、パンツでは“TENGU”と“MIROK”、アウターでは“SANZOH”と“GOKUH”、オールインワンの“PAILONG”など、今季のZIIINはこの苔色を多用している。

しかも光沢のある生地を選んでいるので、例えるなら水気を帯びた苔が、湿度が溜まる小陰や岩肌に忍ぶ。時折太陽の光に反射して密やかにみずみずしく光る。そんな色だ。情景が思い浮かんだだろうか。日本の自然を感じる美しい瞬間だと思う。

付け加えていえば、実は苔は英語でmossと書く。つまりモスグリーンというのは、苔の緑という意味なのだ。いわば“あの”緑は、20世紀初頭に突然「戦いの色」になっただけで、もともとは洋の東西を問わず、自然の中の美しい色だったのである。

こう考えてみると、この緑は戦闘的な色ではなく、物陰に佇む控えめな自然の色なのだと「捉え直す」ことができる。場合によっては黒よりも強い色に見えていたところが、むしろリラックスした優しい色に見えてくる。色を知る楽しみというのは、こういうところにある。

実際問題としても、鮮やかな緑色よりもトーンの落ち着いた苔色は、黒色好きな私から見ても抵抗感が薄く、リラックスした気持ちで着られると思っている。今季気になっている色の一つだ。

「エクリュ=膨張色」ではなく、“日本人の肌に近い色”

HED MAYNER SS21 - LOOKBOOK
Photo by HED MAYNER

エクリュ(オフホワイト)は白に近い色なので、膨張色として避けるお客様も多い。「生成色ってボトムスでは使いにくそうで、履いたことないんですよね」というお話を聞いたことも一度や二度ではない。

でも、挑戦しないまま終わるのでは、あまりにももったいない。ファッションは少しの挑戦と新しさで、いつでも見ている世界を変えられる力を持っている。

私自身も、「自分には着こなせない、似合わないな」と思っていた服を勇気を出して試着すると“いつもと違う自分”と出会った経験がある。色も同じだ。今まで着なかった色を身につけるだけで、途端に新しい自分になれる。

そういった変化を簡単に楽しめるのがファッションの面白さの一つだ。

だから「エクリュ=膨張色」という考えをいったん置き、別の切り口からこの色を捉え直してみて欲しい。エクリュやオフホワイトは、日本では「生成色」と呼ばれ、染色をしない生(き)のままの色のことを指す。

定義としては、やや灰色がかった黄系の白。生成色を難しいと感じている人には意外かもしれないが、私はこれほど日本人の肌に馴染む色はないと思っている。

黒一色をはじめとするワントーンのスタイリングがまとまりやすいのは、色の系統が同じだからだ。それなら生成色が、黄味がかった肌を持つ日本人に合わないわけがない。「こういう色って難しいんだよなあ」はただの思い込みに過ぎないのだ。

今季contextがセレクトしたアイテムで言えば、HED MAYNER / BELTED PANT / ECRU HERRINGBONE LINENが生成色だ。ZIIINの “UKA“も生成りに近いベージュだし、”FAUST“や “MIROK“にも同系色の展開がある。

今まで生成色やそれと近い色に抵抗を持ってきた人ほど、ぜひ店頭に来て一度試着してみて欲しい。肌の色と服の色が一体となって馴染み、服が新しい皮膚のように身体を包む。

同系色で全身を合わせてみても良いだろうし、明るい色のシャツと合わせてもしっくりくる。今年の春・夏の装いが、一気に爽やかになることうけあいだ。

“紫”は「難しい色」ではなく、「古来親しまれてきた色」

ここまでも見てきたようにZIIINは色が豊富なブランドだ。2021SSの新作シャツ“PRINCE”には、青みの強いグリーンとトーンの異なるパープルが入り混じるGREENと、様々なトーンのパープルが入り混じるPURPLEがある。

紫というと難しく感じる人もいるかもしれない。ましてや“PRINCE”のPURPLEのような明るめの紫の場合、「女性的すぎる」と感じる人も多いだろう。しかし紫もまた、日本人が親しんできた色の一つなのだ。

引用:Wikipedia

日本の自然で紫色を感じられるのは4月から5月頃だと言われている。藤・杜若(かきつばた)やツツジなどが咲く。

例えば“PRINCE”の明るめの紫―――伝統色で言えば「藤袴色」と言う―――は、もとを辿れば藤の花の色に由来している。日本人は昔から紫色を愛でてきたのである。旬の色を着るなんて、なんとも粋な着こなしではないだろうか。

江戸時代には面白い現象があった。というのも、当時奢侈(しゃし)禁止令なるものが出て、華美な色の着用が禁止された。これに伴って、紫の服の着用が禁じられた時期があった。

しかし実際には役人の目を盗んで着ていたらしい。法律を破ってまで、当時の人たちは紫の服が着たかった。それだけ江戸時代において紫は魅惑的で、かつ日常的な色だったのだ。

明治期以降は人々の「紫着たい欲」が爆発したのか、藤紫というラベンダーの花のような紫が流行色になるなど、紫の服は一般化していくことになる。

ここまで来ても「とはいえ、やっぱり紫は難しい」と思う人は、おそらく紫の持つ妖艶さとか、神秘性に抵抗があるのかもしれない。

歴史上多くの人間を魅了してきた色なのだから独特の雰囲気を持っていることは間違いないだろう。でもだからこそ、紫という色の魅力をファッションに取り入れて欲しい。

発想を転換してみよう。例えば紫の持つ妖艶さは、着る人に「成熟した雰囲気」をまとわせてくれる。あるいは女性的なイメージのある色だと感じる人には「性別に捉われず、自由にファッションを楽しむ」という視点を提供してくれるだろう。

ファッションで得られる「変化」は良い意味で手軽だと思う。選ぶ色を変えるだけでいい。不安があるなら私や他の販売スタッフに相談してくれれば、色合わせなどのご提案はいくらでもさせていただくことができる。

気負わず、楽しみながら、色物を選んで欲しい。

色は“自分”を変えてくれる

衣服選びのポイントでもある「色」。だからこそ「この色は苦手だ」という意識を持っている人も多い。でも捉え方を変えるだけで、これまで感じていた色とは全く別物に見える。これこそ「色物」の面白さなのだろう。

色物を着るようになった今では、黒一色で生きていた自分を「なんてもったいないことをしていたんだ」と思う。色は自分の気持ちや魅せ方を、大きく変えてくれた。

今回の話を読んで「色」に対して少しでも考え方が変わった人がいれば、ぜひ色物を着てみて欲しい。鏡の前にうつる「新しい自分」に出会い、この春夏は軽やかな気持ちで過ごせるはずだ。

<参考文献>
『日本の色辞典』

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【乙景 春夏営業開始】
・4月3日(土)と4日(日)は13〜19時の通常営業
・以降は金・土・日曜日、13〜19時の通常営業

書き手/伊藤 香里菜(context tokyo販売スタッフ)
編集/鈴木 直人(ライター、ONLINE担当、乙景販売スタッフ)